考え方を変える、ちょっとしたことに気付く、すると本来の力が目覚めたように視界がガラリと変わることがある。私たちは本来の力を発揮できているのだろうか。そんな「人間力」について、外山先生にお伺いした。
私たちが本来持っている素晴らしい能力「人間力」。これを引き出すためには、私たちはどのようなことに着想すればいいのでしょうか。
今の世の中は、知識があれば賢いとか、仕事に成功すれば偉いとか、非常に形式的なことを考えています、資格とか経歴とかね。人間力というのは、あまり問題にない。しかし、実際には非常に大事なことです。その人間力をつけるには学校へ行ってもだめなんです。いいかげんな仕事をしてもだめです。今の人はだいたいにおいて幸せで、生活に関しても昔に比べれば随分恵まれています。こういう時に人間力を育てるということはたいへん困難です。伸ばそうとしても思うようにいかないのです。
どうしてそのようにお考えなのですか。
勉強をしたけどうまくいかない、就職もうまくいかない、生活は苦しい、思わしくないことが重なって本当に困った、何とかしてこれを乗り越えて負けずに生きていこう。その時に人間力が出てくるんです。幸せで順調に生きている人は、成果はあげられても人間力はむしろ衰えていきます。
なるほど、苦労がなければ強くならないということですね。
人は、不幸というものを恐れるけれども、人間力というものを付けたかったら、ある程度は嫌なことをむしろ進んでやるくらいにしないと・・・。
昔、戦国の武将で、山中鹿之介という偉い人がいました。この武将が「我に艱難辛苦を与えたまえ」と神に祈ったんです。立派な家柄の何不自由ない身分です。でも、これでは立派な人間になれない、試練を乗り越えてこそ本当の力が出る。そう考えて七難八苦を神様に祈ったんです。現代の人は、そういう発想の人はいないでしょうけどね(笑)。なるべくいい就職をしてお金を儲ける、これでは人間力はつかないです。持っている力も捨ててしまう。苦しい目には会わない、そう思って生きているとだんだんだめになっていく。
昔に比べれば、今は苦しい目にはあまり会わないですね。
東日本大震災のような天災は天が与えた試練ですが、跳ね返して乗り越えていけば新しい未来が拓ける。平和で天災もない他の地方よりも、次の世代に素晴らしい人が多く出てくるでしょう。天災が来たらそれをバネにして立派な人間になる。災い転じて福となすです。
火事で焼けて丸裸になる。「よし!再建しよう!」と努力すると、やがて焼ける前よりも立派な家が建つことがあります。それを昔は「焼け太り」といったんです。火災にあった人の人間力が高まるから、災難で失った以上のものを得るのです。
これが人間の不思議なところで、いいことがあった後は人間は力を失ってだめになりやすい。悪いことがあった後に成長するチャンスがある。
確かにそうですね。
水の風呂は冷たくてたまらないから飛び出します。ぬるま湯は、いい気分といっていつまでも何もしない。すべて今の人がそうだとは言わないけれども、昔に比べて世の中や家庭が良くなったのです。物質的にです。だから何もしないでぼんやりしています。人は人間力がなくても努力しなくても生きていかれる。
昔は、ぼーっとしていたら食べていけない。だから真剣に生きる。現代では真剣にならなくても大丈夫、なんとかなる。幸せでありすぎるということは、ある意味でたいへん不幸なんです。そういう意味で今の人は気の毒です。
普段の生活のなかでは、どのようなことに着想したらいいのでしょうか。
何でもいいんです、高い目標を作って、とにかく真剣になって努力するのです。失敗してもいいじゃないですか。目指して努力をしていく、その過程に人間力というものが出てくる。今の人達は、失敗する事に恐れすぎです。
何か考えて生きるというよりも、とにかく真剣に生きなきゃいけない。今の人達は、常識的に言えば幸福だけれども、本当の成長ということを考えると、これはかなり危険な状態です。努力をするきっかけがないんです。
こういうことは学校でも教えないし、家庭でも教えないから自分で工夫して捕まえなければいけない。学校の試験の答案を書くよりもはるかに難しいです。優秀な学生よりも劣等生の方が人間力を高めるチャンスは大きいのです。こういう人がまっとうになれば優等生よりもはるかに大きな人間力がつく。
今のように、誰もが大学へ行くというのは間違いです。中学卒で叩き上げてきた人の方が人間力が高まるチャンスが大きいのです。真剣になって考えないと生きていけないから人間力が高まるのです。恵まれていない人達は諦めがちで、学歴がないとだめだと思ってしまいがちですが、そんなことはない。真剣に生きれば立派な人間になれる。
人間は、人間力が少なくても生きていかれるかも知れませんが、自分が育んだ人間力は他の人からもらった力とは違う。人間力をもって生きるとどうなるかということをめいめい自分で実際にやってみて欲しい。
※この記事は2015年01月10日時点の情報を元にしています。現在とは内容が異なる場合がございます。