身体障害者療護施設「ピカリコ」(西尾市平口町)が開所して今年で10年になります。ピカリコが開所された平成14年9月22日、この日は、永谷由美さんの誕生日です。
永谷由美さんは、脊髄性筋萎縮症という難病を抱えながら、英検の準一級に合格。アメリカ旅行で、アメリカの障害者が自立して生きている姿を目の当たりにして、自分たちの現状を変えていこうと決意。同じ仲間が生きる喜びを共有できる施設の建設をと立ち上がりました。しかし、平成9年、29歳の若さで天国へ旅立ってしまいました。母である永谷和子さんや磯貝総一郎さん、さらに多くの障害者と家族によって、その意志は引き継がれ、ピカリコとなって生まれ変わったのです。
「共に生きること、支え合うことの中にこそ、喜びも幸わせもあると信じ、そのことが実感できる社会の実現に向かって、一歩一歩、歩み続けること」を願って─。
この10年で、職員は30人から50人以上に。総利用者は短期入所者も含め200人を越えました。西三河南部では唯一の施設。今では、地域になくてはならない存在となっています。
車イスで動き回る
- 一歩、施設内に入ると、入所のみなさん、車イスで自由に施設中を動き回っています。「こんにちは」のあいさつも交し合って。開放的な雰囲気です。まず、施設長の磯貝総一郎さんにお聞きしました。
- 福祉の道に入られたきっかけは?
- やはり、永谷由美さんとの出会いがあったからです。由美さんは、悩みや苦しみもあったはずですが、冗談を言ったり、明るく、前向き、垣根なしに入れる人。同じ友人としてお付き合いしました。由美さんの前ではみないい人になってしまいます。
- 十年を振り返ってみると。
- 最初は夢中でやってきました。今では頼りにされ、家族からも喜ばれています。開設してよかったと思います。
- ふだん、心がけていらっしゃることは。
- ふつうの仕事の一つと思っています。福祉という意識をしない。障害も一人ひとりみな違います。私達が決めるのではなく、利用者のニーズに応えていくことです。
- 意識しないというのは、すばらしいと思います。
- 施設長というより、友人のつもりで接しています。ただ、福祉の制度がよく変わるので、経営面はしっかりと。
- これからの計画とか方向としては。
- あまり考えていません。その時のご縁を大切に、今を一生懸命にやる。その先に、いいことがあるのではと思っています。
- 入所者は32人。個室があり、図書・パソコンコーナーもあります。パソコンに向かっているのは、村松勝興さんです。
- パソコンで何を楽しんでいますか。
- カラオケやゲームに絵も書きます。パソコンで字も覚えました。もう10年やっているので、何でもできますよ。
自分の手で作ったHP
- 自分のホームページ「純子の部屋」を立ち上げたのは、星原純子さん。自己紹介をし、かつ「私は体に、ハンディーを持って生まれてきました。障害があっても一人の人間です。普通の人とは違い、言動がなかなかうまくいかないかも知れませんが、それが、現実です。私は自分の姿をありのままでいいから、地域のボランティアさんに、助けてもらいながら、これからも生きていたいです」と書き込み、「私と友達になってください。メッセージを待っています」と呼びかけています。
- ホームページはいつから作ったのですか。
- 去年の五月から。八月にできたのですが、まだ自信がなかったので、直したり加えたりして、今年一月に発表しました。
- 作ってよかったことは?
- 自分の手で作ったこと。自分の好きなようにできたこと。
- 今一番楽しいことは?
- 外出すること。大好きなスマップのコンサートには二回行きました。映画も好きです。買い物の好きな人がいたら一緒に買物に行きたいです。
- もう一人、鈴木寿美子さんも「すみこのホームページ」を完成させました。自己紹介・家族紹介では、両親は亡くなり、双子の姉だけとなったことなども書いています。
- ホームページで何を伝えたいですか。
- 私はコーヒーが好きで、一日二杯は飲みます。そんな私のことを知ってもらって、友達を作りたいです。
- 持ち運びができる「どこでもピアノ」は私も持っていますが、上手に弾けますね。
- 一年でマスターしようと目標を持って練習しました。インターネットで探して買いました。施設で漢字の勉強もして、読めるようになりました。思っていることが書けるので、ホームページで伝えていきたいです。
- お忙しい中を、介護主任の桐戸隆さんにもお聞きしました。
- 一番、心がけていることは何でしょう。
- 怪我なく安全で、生活の場を楽しいものにしたい。うれしいことも、辛いこともありますが、お互い認め合い支え合って、一歩一歩積み重ねていきたいです。
世界が広がった
- 運営する歩々の会の理事長の永谷和子さんが、食堂で昼食のお世話に当たっていました。
- みなさん、元気で明るいですね。
- 十年を経て、困った時に役立つことのできる施設になりました。みなさんが喜んで利用してくださいます。車イス、電動車イスも操作し、自分で買物や外食ができるようになりました。世界が広がってきました。
ピカリコ開所十周年のプレゼントは、好きなところへの一泊旅行。家族、職員とともに。高山、伊勢など、どこにしようかと、今から胸を躍らせています。
インタビュアーのひと言
時間が、ゆったりと穏やかに流れている気がしました。そして、甘えた生活の自分が恥ずかしくなりました。ピカリコの皆様に、たくさんの勇気と力をいただきました。あの笑顔、忘れません。
※この記事は2012年04月10日時点の情報を元にしています。現在とは内容が異なる場合がございます。