ふるさとを愛し、ふるさとの土を愛し、作品を作り続ける陶芸家、森克徳さん。釉薬を生かした華麗な作品とともに、三州瓦の「いぶし」の技法を取り込んだ作品でも知られる。平成20年、美しいいぶしの輝きが詩情豊かな姿を見せている作品「銀の連想」で、第46回朝日陶芸展グランプリを受賞した。森さんの受賞が、歴史ある朝日陶芸展のエンディングを飾ったことになる。高浜市青木町の工房に森さんをお訪ねした。
森先生はお若いですね。芸術家は若い感性をお持ちだから、お年はとられないのかなと思ったりします。
からだの中はしっかりと五十五歳です(笑い)。焼き物を作るのには、結構体力を使います。朝起きてストレッチをやったり、筋トレとか、腕立て伏せをやったりしていますよ。
小さい頃から、ものを作るということが好きだったのでしょうか。
そうですね、勉強するよりも、作ることの方が好きでしたね。祖父は高浜で土管を、父は瓦の釉薬を作っていました。母の実家は瀬戸でした。
焼き物に関わる様々な環境があったわけですね。
瀬戸の実家は皿屋さんで、そこの叔父さんが、見る見るうちに皿を作ってしまう。そういった憧れみたいなものがありました。
ご両親から「勉強しなさい」などとは言われなかったですか。
三人兄弟の末っ子でしたから、好きにさせてもらった。そういった意味では恵まれていました。父親も焼き物を作るのは好きでしたね。作る姿は見ていました。楽しそうに作っていましたね。
好きだからできるというのが大きいのではないでしょうか。
そうですね、好きだから我慢できる。それが原動力ですね。逆に言うと辛いことの方が多いですね。作りたいものがあっても作れないとか。
影響を受けた人は?
高浜におられる神谷英介さんですね。中学生のときにお会いしたのですが、まだ私には、焼き物は古いもの、よく分らないものだった。だけど、神谷さんの作品を見て感じたんです。すごい世界だなって。
陶芸の道に入られたのは自然なことだったのですね。
普通のサラリーマンだったら、一番最初にリストラにあっていたと思います(笑い)。この道だったからこそ、何とかやってこられた、生きてこられたんじゃないかな。自分の子供が陶芸をやると言い出したら、多分反対すると思いますね。食べていくのは大変なことです。
普通科高校から美大へ進まれたのですね。
それも親に感謝しないといけないです。さすがに三浪は無理でしたが、二浪までさせてくれました。子供の頃からやんちゃだったのですが、大学に入って、大人しくなった。自分にとって、居るべき場所、落ち着けるところでした。
卒業後も順風で…。
いやいや、苦労しました。生活していかなくてはならない。瓦の釉薬の製造・販売で、営業もしました。夜は自分の作品をつくる。長丁場だと覚悟していたので、夜十一時までと決めて。我慢できたのも、好きなことができるから。一日一日こつこつと。その積み重ねが、いつか力になるのですね。
初の受賞は昭和六十年の光風会展工芸賞になるのですね。やはり節目というか、変化のときになるのでしょうか。
そうですね。作品の方向性が見えてくる。少しずつ形になってくる。朝日陶芸展は子供のときからの憧れだった。長い歴史の最終回展でグランプリを受賞できたのは、一生の思い出です。
作品に込める思いというのは?
地元の三河の土を使った作品は素朴な味わいがあるのですね。素材の魅力をどう生かすか。人が見たときに、私が感じたように、感じてもらえるか。分りやすく使ってもらえるか。釉薬の微妙な変化をきれいに出せるか、を考えてつくる。土の塊から輝くような作品にしていく。自分でも不思議な世界だと思います。
先生はとても謙虚でいらっしゃる。ご両親への感謝や人や物とのご縁を大切にされていますね。
一人では何もできません。周りの人の力があってできる。この机も家も、きょうのインタビューも。自分は100の内の1か2です。工芸には「素材」があります。作品に自分を入れてしまうといけない。自分を抑える。自分を出すといいものはできない。自分の感じるものを100%出したのでは、人は感じてくれない。10分の1くらいは入れたいと思いますが。
ふるさとへの思いを聞かせて下さい。
焼き物の産地は沢山ありますが、私はここ高浜でやりたかった。古くから、いぶし瓦の産地で、町には煙がのぼり、灰色に染まっても、私は高浜が大好きです。町が私を育ててくれた。いい思い出ばかり。ずっと住みたいと思っています。
若い人へのメッセージをお願いします。
自分のしたいことは何かを見つける。見つけたら、少しでも近づけるよう、諦めずにこつこつと努力をしていってほしいですね。
感謝の気持ちを忘れず努力されているから、夢も叶うのではと思います。さらに、これから目指すものは何でしょう。
少しでも理想に近づけるように。瓦の「いぶし」の技を生かした作品ですね。まだ試行錯誤ですが。それと、三河土の素材を生かした作品。釉薬のしっとり感を出したい。人々の生活空間に入っていけるもの。日々の生活の中で、楽しいと思ってもらえる作品を目指したいと思います。
楽しみにしています。きょうは、ありがとうございました。
※この記事は2011年01月10日時点の情報を元にしています。現在とは内容が異なる場合がございます。