30年程前、瀬口氏は西尾のまち並みの未来を思い描いていた。イギリスの郊外、オックスフォード、ケンブリッジのような緑と歴史・文化が融合した素晴らしいまちができないだろうか。あれから30年たった今、瀬口氏は、そのプロセスを振り返りながら思いを語る。

 様々なまちづくりに関わってこられたなかで、西尾のまちづくりについてお聞かせください。

 最初に関わったのは、西尾の商業近代化地域計画です。当時の中小企業庁が支援する計画で、商業者が自分達で作成するので手伝って欲しいということでした。1985年、30年前ですね。その頃、西尾の商店街はまだまだ元気で、商店街単位ではなくて、まち全体を考えながら商業の計画を作れないかということだったんです。

 郊外に大きな店ができ始める前のことですね。

 そうです。西尾市の中央通りを拡幅する前のことで、現在のシャオ(ショッピングモール)のところがゴルフ練習場だったんです。そこに大きな商業施設ができた場合、中心街との関係をどのように考えたらいいかということがありまして、それで提案しました。
 城下町があって、お城が南側、岩瀬文庫が北側。それを歴史的まち並みが南北につないでいるので、これを文化軸にしようと。名鉄西尾駅と現在のシャオのところに2つの商業核みたいなものができて、それを結ぶ形で中央通りの商店街があって、拡幅に合わせてケヤキ並木にすると素敵な街ができるんじゃないかと。これを商業軸とするなど、皆さんの意見を聞きながら。
 また、市街地の外側に新しい環状道路を位置づけました。西尾は城下町だから核がしっかりしてる。だからそれを活かしたまちづくりができないかなと。

 すごく素敵です!

 駅前からモールができて、歩いてまちの中にいけるようにできたらいいですよね。その議論のなかで実現したのが、みどり川の「よくばり市」です。西尾は総構えの城下町なんですよ。これは面白い!と思いました。

 総構えというのは?

 城郭、城下町、それら全体を堀が囲んでいるんです。でも、現在堀はほぼなくなっているので皆さんは忘れているかも知れない。そこで、堀を見えるようにして、城下町という意識をもう少し高めることができたらいいなと思いました。幸い、天王門や丁田門、追羽門、須田門などの跡が残っていて、そこは道がちょっと屈曲しているんです。それらの門が総構えの入り口。これを復元したら西尾のまちの成り立ちがよく見えるんじゃないかと思いました。その後、愛知県版ふるさと創世事業で、それぞれの市町村がアイデアを考えてくださいというのがあって、西尾市から近衛邸と隅櫓(丑寅櫓)を復元したいという提案がありました。当時私は県の審査員だったんです。それが1996年、19年前です。隅櫓と鍮石門がその結果できて、西尾は城下町のイメージを取り戻すようになってきたんです。
 その少し前の1990年、生涯学習が当時流行するんですよ。その時、私が講師を務めたまちづくりアイデア教室のなかで、西尾は全国一の抹茶生産量を誇っているけれど何も訴えることをやっていない、だから「抹茶の日」を制定しようという提案が出たのが、現在継続されている「抹茶の日」が産まれたきっかけです。また「宇治金時」ではなくて「西尾金時」と呼ぼうというアイデアもこの時のものです。


 ところで、まちづくりにおいて大切にされていることは何ですか?

 歴史を大切にしたいと思っています。1980年代、西尾は、私にこういうことに気付かせてくれたまちなんです。古いものを大切にしようと。もちろん新しいこともやらなければいけない。バランスが難しいんですけれど。今は、歴史まちづくり法ができて、国の支援を得て都市が持っている歴史、それから人々が継承している営みを大切にしたまちづくりができるようになっています。でも当時はまだ開発が中心だったと思うんです。西尾のまちづくりは一歩も二歩も先に行っていました。
 西尾は、私が以前留学していたイギリスのオックスフォードやケンブリッジに似ている。緑と文化が融合した歴史都市です。それで私達、西尾のまちづくりに関わるメンバーで現地確認のためにヨーロッパへ行きました。1995年、20年前のことです。
 さらに、西尾市だけではなくて、もう少し広域的に考えたらどうかということで西三河サザンコリドール構想を手掛けました。それもあって名浜道路の構想が落ち着いたんです。
 そうこうしているうちに尚古荘(茶室・庭園)のオーナーがお亡くなりになり、料亭かマンションにしたらどうかという話しが出ました。これは残さなければいけない。皆で働きかけて西尾市に買い上げていただいたんです。一族の方も喜んでおられました。建物と庭園に加え、お抹茶がいただける伝想茶屋が隣接してつくられ、ひとつの核ができた訳です。お茶処西尾に茶室を集めよう!ということも働きかけました。また、価値がある建造物を大切にしていただくことの一環として「西尾建築番付」も作りました。
 最近は西尾市郊外にロードサイド店が増えました。元気があるように見えるけど西尾の良さが薄れた気がします。郊外の発展はいいのですが、景観をちゃんと整えて落ち着いた雰囲気にしていけたらなと思います。そのためにも西尾周辺の環状道路などの整備を早く進めることがいいと思います。
 それともうひとつ。市町村合併で城下町西尾に加えて、一色・吉良・幡豆といった国の重要文化財をたくさん持ってる町が仲間になったので、これを大切にして文化というカタチで連携したらいいと思います。城下町としての西尾の魅力に深みが出てきます。

 そうですね、西尾の歴史を活かしていくと、どこにもない街になりますよね。

 そうです。それが住んでる人の誇りになります。また、僕は人間を大切にしない街はだめだと思っています。金儲けするだけではつまらない、やっぱり、社会や文化に貢献する、そういう人を大切にする街は、いいなって思います。


インタビュアー
ハープ奏者 川島 憂子さん
ハープ奏者 川島 憂子さん

2才から音楽の基礎、4才からピアノを始める。スコットランドでハープに出逢い、ハープに転向。第9回大阪国際音楽コンクール入選。