近年、日本に住む外国の人々の数は年々増加傾向にあるにもかかわらず、日本に住む外国の人々に対してコミュニケーション不足による地域での孤立が目立つ。また、外国人住民と地域住民のルール伝達不足でトラブルになることも多い。同じ地域に住む住人同士、同じ現場で働く者同士が優しい気持ちでお互い一歩ずつ歩みよれば、お互いが知らない世界を知るチャンスにもなるだろう。そこで、今回は公益社団法人トレイディングケア代表理事 兼 高浜市多文化共生コミュニティセンター センター長である新美さんに話を伺った。




本日はよろしくお願いします。まず簡単でいいのでこれまでの歩みを教えてください。


高浜市生まれ、高浜市育ちということもあり私にとって高浜市は思い出の沢山詰まった場所。看護師をしていた時のこと、日系ペルー人の方と関わることがあり、初めて日本以外の文化に触れました。その後、看護教員になり大学で教えていました。社会人として働きながら大学院に入学し、その時期の2008年7月1日に発効した日本・インドネシア経済連携協定(EPA)でインドネシアは人の移動が可能になったので、その人達の調査と研究をずっとしていました。


看護教員になって、その後社会人で新たな分野で研究される、よほど興味深い分野だったのでしょう。どのような調査だったのですか?


看護師、介護士の国家試験に外国人が受からない。日本人は全体の90%受かる試験に外国人の合格率は10%未満でした。なぜ受からないんだろうと疑問に思い、調査をしていました。調査を重ねていくうえで、インドネシアから来ている彼女たちとの関わりが深くなっていきました。国家試験のための日本語を教えたり、一緒にご飯を食べたり。それがすごく楽しくて。そうやって関係を築いていった人達が、看護試験に合格していったんです。結論、やはり日本で何かを習得するには時間がかかるということと、周りとの関係が大切だということでした。今私たちがやっているバディの基礎はそこから生まれました。


バディというのは、相棒とかの意味合いがあると思うのですが、日本人と外国人が支え合うということでしょうか?


そのとおりです。外国人住民と地域住民がお互いに支え合う活動のことを私たちはバディと呼んでいます。ベルギーで行われている「バディ制度」を参考に、「バディシステム」を取り入れました。これは来日する外国の人々が日本で円滑に生活できるように地域住民がサポートを行う取り組みのことです。多文化共生コミュニティセンターの入り口のペンギンの人形の首にかかっているリボン。これはバディのしるしです。首に付けたりカバンに付けたり。この目印があることで外国の人が声をかけやすい、そんなしるしです。


バディのしるし


私達が外国に行っても同じことですよね。これを買うにはどうすればいいかという問題点にぶち当たった時に、現地の人に聞くのが一番なんだけどそれがなかなかできない。でも話しかけてもいいという目印があると、安心します。現在、公益社団法人トレイディングケア代表理事 兼 高浜市多文化共生コミュニティセンター センター長をなさっていますが、そのことについてお伺いしてもいいですか?


トレイディングケアでは医療・福祉現場で活躍する介護技能実習生の受け入れ、育成を行うとともに、日本で働き生活する外国の人々と地域の人々が、共生していくサポート事業を実施しています。2020年3月に高浜市と多文化共生事業で協定を結び、2021年7月に多文化共生コミュニティセンターが開設されました。多文化共生コミュニティセンターは敷居が低く、外国の人が気軽に訪れることのできる場所として運営しています。


そのような活動で、地域住民と外国人住民を繋げるお手伝い、素敵ですね。これには地域住民の理解が必要不可欠だと思うのですが、具体的にどのような活動を行っているのか教えていただけますか?


まず、地域共生の話し合いを行う高浜市市民会議へ市内在住の外国人住民を連れて参加しました。外国の人が抱えている問題などを伝えるためです。また地域の日本人の子どもとペアを組んでまちを歩くウォークラリーを開催し、日本人と外国の人々が触れ合える機会をつくりました。高浜市の委託業務として多文化共生コミュニティセンターで日本語教室や多文化子育てサロンも実施しています。このように、地域住民と地域に住む外国の人が顔見知りになっていれば、ちょっとした時にお互い声がかけやすい関係ができます。地域の特色を活かすため、地域イベントやお祭りに外国人住民と参加するなど、地域にある資源やモノ、情報を用いて人と人をつないでいきます。そうすることで地域の資源や人と外国人住民がつながることで、地域に新たな共生社会が誕生します。


小学生の絵と共に


なるほど。知らない人は怖いけれど、知っている人なら安心ですよね。先ほど外国の人たちが抱えている問題ということが出ましたが、今まで外国の人が抱えていた問題について教えて下さい。


高浜市には、外国人住民が多くその割合は8%ほどと、人口に占める外国の人の比率が高いにもかかわらず、日本人コミュニティとの接点は薄かったんです。そのため、地域の外国の人は行政に相談するまでもないちょっとした生活の困りごと(書類が書けない・子どもの宿題を見てやれない教えることができない・歯医者や病院の行き方がわからないなど)を抱えていることが多い。このような小さな困りごとが解決されない結果、行政に相談にくるころには、解決が難しくなってしまうケースも多かったんです。だから、そのちょっとした困りごとのために多文化共生コミュニティセンターがあります。


なるほど、ゆるやかなつながりや楽しい活動づくりをし、ちょっとした困りごとのお手伝いをする場、それが多文化共生コミュニティセンターの役割なのですね。


昔は、日本人一人に対して外国の人一人を結びつけるバディシステムを行っていましたが、日本人側の対応に差が出たり「してあげたい」という気持ちが前面に出すぎたりといった問題があったため、今ではゆるく地域住民と外国の人を結びつけることを重視しています。まちで声を掛け合える人が増えることが大事なんです。


知らない人を知っている人に変える、そのキッカケづくりが大切なのですね!私も今日からバディのしるしを身につけて日常を過ごしてみます。本日はありがとうございました。


インタビュアー
石原 智葉さん
石原 智葉さん

昭和48年9月4日に西尾市で生まれ育ち、OL時代を経て26歳で結婚。一級建築士試験(合格率10%難関試験)を44歳で取得。一般の方向けに自然素材を使った家づくりについて勉強会などを自社で開催しながら、設計業務をしている。普通の主婦から一級建築士になったからこそ培われた視点で西尾市や近隣の自然に寄与する家づくりを提案している。