今は日本の女性の初産年齢が30代に入り、出産を考える年齢も高くなっています。でも、正しい知識が足らないため、後から不妊症、不育症に苦しむ人も増えています。3回以上の流産を繰り返す不育症、習慣流産の研究をライフワークとしている真弓先生は、全国初の女性産婦人科主任教授。「人間の生殖にはタイムリミットがある。正しい知識を持って欲しい」と強調します。休日、西尾市の実家に帰った先生に、お話を伺いました。

 杉浦 真弓さんの子供時代はどのように過されていたのでしょうか。

 この辺りは田んぼがいっぱいあったから、メダカやドジョウを友達と取りに行ったり、バレーボールやドッジボールをしたりとか、アウトドアの子供でした。

 勉強の方はいかがでしたか。

 勉強をするようになったのは、高校時代からですね。

 ご両親のしつけとかは、どうでしたか。

 私が小学校四年の頃、母が悪性リューマチのために名古屋市立大学病院に通院し始め、時々一緒に付いて行ったりしました。母は医療関係に進んで欲しいと言っていました。医学部に入れるような成績ではなかったので、最初は薬剤師になりたいなと。母は女性も仕事を持って欲しい、と考えていたようです。やがて私の成績が良くなってきたので、医学部に行って欲しいと言うようになりました。

 お母様の病院通いで、「医学の道に進もう」ということになられたのですね。

 それと、叔母さんが助産師をしていたんです。産婦人科を選んだのは叔母の影響もありましたね。それに出産という、おめでたいところがいいなと考えたのも理由の一つです。

 これから妊娠や出産を迎える方へ、一番伝えたいことはどんなことでしょう。

 この国は、生殖の教育を全くしていないので、女性は平均五十歳の閉経まで妊娠・出産が可能であると誤解されている人達がたくさんいらっしゃいます。日常診療の中で、いま不妊症や流産を繰り返す不育症の人達の年齢がものすごく上がってきているのです。
 妊娠を先送りにする一番重大な問題は、妊娠、出産ができなくなるということなんです。自分の努力でもどうしようもないことがあるということを意外と知らない。だけど、「妊娠適齢期」を全国で一人一人が考えた時に、すごい意味があると思うんです。

 それには、男性の理解、協力もなくてはなりませんね。

 思春期では卵が二十万個、そして五十歳でゼロになる。卵子の妊娠応力も低下する、「卵子の老化」に関することって、女性はもちろん、男性も知っているべきなんです。

 若い時から自覚を促すということが本当に必要になってくるんですね。有名人が高齢で出産したということを聞いてしまうと、それがたやすいことと思ってしまう。正しい知識がないからということですね。

 高齢でも出産できると勘違いしてしまう社会の風潮というか、そういう教育から変えていった方がいいということですね。私は3月初旬の「女性の健康週間」で、「哺乳類としての妊娠適齢期」のテーマの市民公開講座を八年前から行ってきました。若い人達に、妊娠のことを勉強して欲しい。現実に子供が要らないと心の底から思っている人は少ないと思います。

 私もそうだと思います。

 NHK「クローズアップ現代~卵子の老化」に出演したんですが、反響が大きかったです。地道な努力がようやく実になりつつあります。


 先生の一日の仕事の流れを教えてください。

 曜日ごとに異なるんですが、七時半に出勤してまず、研究の仕事をします。月曜日は朝九時から臨床実習の学生さんのオリエンテーションをする。午後からは不育症専門外来でご夫婦に検査結果を説明します。つらかったことを思い出して泣き出す人もいるのでカウンセリングになることもあります。実の親からも「あんたが仕事していたからいけない」とか、なかなか理解されていない病気です。

 実習に治療、研究に講演もあったりと、大変ですね。

 今は、基礎研究分野の先生たちの知識や技術をお借りして不育症の患者さんに生かす、共同研究が多いです。東京大学の人類科学というところで、流産に関係している遺伝子を網羅的に調べる研究をしています。アメリカやイギリスの大学とも共同研究を行っています。

 それは心強いですね。

 私は、母親がいろんな病気になって、一緒に悩んできたから、苦しんでいる患者さんに、どうしてこんなになってしまったのかと、説明してあげるための研究が基本です。習慣流産の大多数が出産に至るんだけど、十回とか二十回、流産している人が世の中にいるんですね。今まで四千人は診察してきたかな。その中の二十人未満だと思われます。どうして流産したのか、その原因を調べるのが私の今の研究課題です。
 今の遺伝の研究技術はすごいんです。二十数年前には夢だったことが今は実現しそうにはなってきています。多分、私達の流産の知識は世界でも有数だと思っていますが、その知識と東京大学、長崎大学の先生たちの技術と力を合わせて、きっと道が開けると思います。

 これからの先生の人生プランをお聞かせください。

 最終的に二十回流産した人に理由を説明してあげられるということが私の研究のゴールです。その時に研究が終わってもいいかなと。妊娠適齢期の啓発もずっと続けていきたい。流産の研究とともに私のライフワークですから。メディアの力はありがたいです。「アンアン」でも、人生の選択という特集をやっていますよね。

 最近の雑誌は、女性の年齢、女性のからだの話を含めての特集が組まれることが多いですね。こうした話題が定着してきている感じです。女性の先生が言っていただくと共感を持てます。

 例えば、自分がなかなか妊娠できないことや流産をしたことは言いづらい。だけど、カミングアウトしたら、自分と同じ悩みを持っている人が多いと分って安心できる。

 多忙でいらっしゃると思いますが、先生ご自身の健康法ですとか、ストレス解消法がありましたらお願いします。

 小学校から水泳部で水泳をやっていました。今の仕事は、健康でないとつとまりません。今朝も西尾のホワイトウエーブで泳いできました。

 ふるさとの西尾とか、西三河への思いを聞かせて下さい。

 郷土愛は強いと言われます。西尾市はお抹茶のシェア70%ですよとか、岡崎城とか八丁味噌など、国内外の講演でアピールしています。それと名鉄電車の西尾線がどうなるのか心配です。

 昔から慣れ親しんだ方々が多いですからね。

 実際、クルマだけが市民の足では困ると思うし。やはり、高齢者や障がい者のことを第一に考えるまちでないといけません。

 私もそう思います。きょうは貴重な時間をありがとうございました。


インタビュアー
大嶋 宏美さん
大嶋 宏美さん

1979年生まれ。岐阜県出身。出版社勤務を経て、西尾市一色町で書店を営む夫と結婚。町の本屋の嫁として日々奮闘中。趣味は散歩と読書。