豊田市に話題の若手プロ農家たちの集まりがある。「夢農人とよた」が結成されたのは2010年のこと。農業の未来に危機感を持つ若手プロ農家が集まり結成された。向上心をもった若手農家たちが集まり、組織化して力を合わせ、社会や消費者に対し発信・交流を続けている2022年で12年目を迎える夢農人とよたはどんな組織で、それを担う大橋鋭誌氏とはどんな人物なのか、話を伺った。


本日はどうぞよろしくお願い致します。それでは「夢農人とよた」についてお伺いしたいと思います。どのようなグループ(団体)でどんな活動をしているのか教えてください。


「夢農人とよた」は20代から50代のいわゆる若手と言われている人たちの集まりです。農業といってもジャンルが凄くあるんですけど、そのジャンルを超えて団体を作っているというのは珍しいと思います。「作ってどうやって成立しているの?」とよく聞かれます。


そうですよね。そのジャンルの垣根を設けなかったのはなぜですか?


単純に垣根を設けてやっている場合じゃなかったからです。豊田で養豚をやっている農家はすでに数えるほどしかいないし、牛をやっている人も数える人しかいない。僕たちはお金儲けのためだけではなく、もっと農業の大切さをPRしていかないといけないと考えています。このままでは農業が衰退してしまうと危機感を感じて「夢農人とよた」を立ち上げました。


団体を立ち上げたとき、反対意見などはなかったのですか?


皆さん、団体に賛同して入ってくれています。反対意見などはなかったですね。当時、SNSで発信することなどが徐々に定着してきた時代。個人がインターネットで情報発信する時代になりつつあったのでよかったのだと思います。


温かく受け入れてもらえたのはよかったですよね。「夢農人とよた」は3名で立ち上げた団体で、大橋さんが三代目の代表というところも気になりました。詳しく教えて下さい。


言い出しっぺがトヨタファーム(養豚場)の鋤柄さんで、僕の親戚にあたる人です。「これからは自身でアピールしていかないと、農業が衰退してしまう」という危機感を持っていました。そこで、声をかけられたのが始まりです。そこに広告代理店をやっている株式会社ルーコの井上さんが入り、夢農人とよたを立ち上げました。農家って自身でアピールするのが下手な人が多い。生産者であって商売人じゃないですから。だから、この団体が必要なんです。


わかります。建築も職人さんがまさにそういう方たちが多いんです。腕がいいことをお客さまにアピールすることができない。そういう感じかなと思いました。


似ていますね。農家のほとんどが職人気質です。ごく稀に僕のような人もいます。でも、そんな職人気質の人も「夢農人とよた」に入って、マルシェなどの活動を通して、「農作物」ではなく「商品」って思える人が増えてきました。現在、豊田、みよし、東栄町の計28名が活動しています。


これからどんどんと、若い担い手が増えていけばいいですね。「夢農人とよた」は、この12年間どのような道のりを歩んできたのでしょうか?


まずはよそさまのイベントに付いてまわるということから活動を始めました。軽トラ市が参加した初めのイベントです。知り合いが豊田スタジアムで「軽大会(軽トラの即売会)」を開いていました。その即売会に行って野菜などを売らせてもらったんです。


軽トラ市


現在のマルシェみたいな感じで野菜を売ったということですね。


そうですね。それから、3年目に豊田市の竜神町のパン屋さんの敷地を借りて「夢農人マルシェ」を月2回開催します。その後、築100年の蔵を借りて、マルシェとカフェを同時にオープン。そこを5年間拠点にしていました。その後、新型コロナウイルスがやってきます。


夢農人マルシェ


新型コロナウイルスによって、世の中がストップしてしまいましたね。その後どうなったのか気になります。


世の中がストップしてしまって、僕には考える時間ができました。その中で「みんなで売る直売所がやっぱりほしい」という想いに至ったのです。そんな中、知り合いの不動産屋さんからの紹介で「この場所で何かしないか?」という話が舞い込んできたのです。その後、令和2年12月に「おいでん市場」をオープンさせます。



おいでん市場 オープンの日


コロナ禍でオープンさせるというのは、並大抵の決断力ではありませんね。


こんなに新型コロナウイルスが長引くとは思いませんでした。人の生活はガラっと変わったと思います。でも、これは深刻な問題にはなっていません。なぜなら、ロックダウン状態の時に産直がものすごく流行ったんです。


ステイホームで家にいることが多くなり、外出もできず、お子さんのいるご家庭などはとくにお金がかかるからですね。あと、産直の安心感もあるのでしょう。


僕はトマトを作っていて、約7割を東京に出していました。しかし、飲食店がストップしたら、東京に出していたほとんどのトマトがストップ。「やばい、このままじゃトマトが売れない」と危機感を感じていました。しかし、農協の産直が8店舗あり、そこでトマトが売り切れたんです。それくらいみんなが産直に足を向けていました。


そうですね。新型コロナウイルスでさまざまなものがストップしてしまっても、食べることは止められない。大切なことだと改めて感じました。産直はコロナ禍でも強い。


農家って各々はただの点。でも、繋がると面になれます。「夢農人とよた」では、28人が繋がり、困った時に助け合えるんです。そのスピード感は凄いと思います。「最終目標はなに?」と聞かれたらこう答えます。「農業を担ってくれる人が一人でも増えてくれること」って。これは「夢農人とよた」だけではなく、僕たちの農業に携わっている人共通の問題です。


一人でも農業に携わってくれる人が増えるといいですよね。最近入った若手農家さんについて知りたいです。


東栄町で名古屋コーチンを飼っている40代の若手がいます。もともと公務員でしたが、名古屋コーチンをやっていた農家さんから引き受けて始めました。あともう一人、白菜とスイカをやっている20代の若手もいます。11月27日から「おいでん市場デビュー」です。ふたりとも実家が農家というわけでもなく、初心者から始めた人たちです。そんな若手たちを全力でサポートしていきたい。


本当ですね。とっても楽しいお時間でした。今日は「おいでん市場」でお野菜など買って帰ります。本日はありがとうございました。


インタビュアー
石原 智葉さん
石原 智葉さん

昭和48年9月4日に西尾市で生まれ育ち、OL時代を経て26歳で結婚。一級建築士試験(合格率10%難関試験)を44歳で取得。一般の方向けに自然素材を使った家づくりについて勉強会などを自社で開催しながら、設計業務をしている。普通の主婦から一級建築士になったからこそ培われた視点で西尾市や近隣の自然に寄与する家づくりを提案している。