刀には刀身のほかに鞘や柄などの外装があり、これを拵(こしらえ)という。拵は本来、刀身そのものを保護するとともに、無用に人を傷つけることを防ぐのが第一の目的だが、身分や階級を示す標識としての役割も加わっていった。江戸時代、泰平の世が続くにつれて刀は武士の権威を示すための意味合いが一層強くなっていく。拵を見るとその人なりが見えてくるという。
武士の拵に出会われたのはいつ頃でしょうか。どのような出会いだったのでしょうか。
私たちは小さい頃から竹を切って腰にさし、鞍馬天狗になりきってチャンバラごっこをやっていました。これが下絵なんですけれども、実際の刀と出会ったのは二十歳過ぎてから。あるお宅へお邪魔した時に見せていただき、生まれて初めて真剣を手に取らせていただいたんです。素晴らしい、凄い、怖い。心を動かされました。そういうことがありまして、その後、私には高価でしたが一つ買いました。それから刀の魅力に引き込まれていったんです。最初は刀身でした。
どのようなところに惹かれたのでしょうか。
刀身の鋭さ美しさに心を引かれました。真剣を実際に持ってみるとその時の私の気持ちがお分かりいただけるかと思います。この名刀を持ってみてください。
緊張します。怖い感覚があります。
初めて真剣を手にした時、そのような感覚がありました。殺気があって鳥肌が立つような感覚です。その魔力というか魅力にどんどんのめり込んでいきました。言葉では表現できません。体感しなければその感覚はわかりません。鋼の地肌を見てください。とても美しいと思います。怖く見える刀と優しく見える刀があります。刀身はこのように魅力的です。だけど刀身だけではわからない。拵があって初めていろんなことが見えてくるんです。
拵に注目しはじめたのはいつ頃からなのですか。拵を見ると何がわかるのでしょうか。
当初は拵などはグリコのおまけのように思っていました(笑)。ところがある日、柳生の拵と偶然出会うきっかけがありました。刀身もいいが拵も面白い。拵というのは人なりがわかる。尾張には尾張拵があり肥後なら肥後拵があって、藩によっていろんな特徴があります。地元である三河地方の拵に興味を持ち、研究するようになりました。
柳生十兵衛をご存知ですか。一般的には江戸柳生を思い浮かべますが、本当の柳生というのは尾張柳生が主体なんです。柳生新陰流というのは人を生かして勝ちを取る。どういうことかといいますと、斬って殺すのではなく軽傷を負わせて殺さないんです。そういったことを家康が好んだといいます。そんな柳生の刀が、友人宅へ遊びに行った時、偶然床の間にかかっていたんです。これは柳生ですね、と。譲っていただきたい、しかし譲る気はない。ところが数年後、柳生の刀が手元に来ました。そうすると柳生について勉強し始めるんです。柳生新陰流とは何か、柳生拵とは何なのか。
西三河にはどのような拵が現存しているのでしょうか。
その頃偶然、西尾の刀にも出会いました。西尾藩士今井定弘(1831~71)が身に帯びた刀と拵です。今度は、今井という人はどういう人なのかということを勉強しました。鍔を見ると、野ざらしになったとしても「命を捨てて義を取る」と書いてあります。今井定弘は、これを脇にさして戊辰戦争に出動しています。そういったことが拵から見えてくる。武士の心意気がそこに入っているんです。拵を手にすると今井の人なり、柳生の人なり、時代考証もわかってきます。調べるために日本全国へ行きました。奥が深い、そこが拵の面白さです。
一、刀は拵があって一人前 刀身だけでは裸と同じ 一緒に並べて初めて その刀の雰囲気と 所有者の心、そして 時代考証ができる
二、刀は武士の表道具 刀は先祖代々の家宝 拵は武士の顔と心根 拵を見れば武士の人なりがわかる 拵は自分好みに作る それが名のある武士の心根
拵には規範で定められたものがある一方で、平常用のものには華美なものも多く、時代や個人の嗜好を反映して多種多様な形態のものが作られました。鞘の漆塗りや柄の皮、糸巻き、小柄、笄、鐔などに金工、漆工、染織などの各種工芸技術の粋を尽くした精緻な細工が施されていて、江戸の工芸技術が集約されています。
武士の拵は、どこへ行けば見ることができるのでしょうか。歴史の宝を保存・継承していくためのにどのようなことをしていきたいとお考えでしょうか。
残念ですけれど拵(下級武士の拵)を見られるところはありません。刀身を見られるところは徳川美術館など色々あるように、結局刀身が中心なんです。拵を中心にした書物もありません。だから私は、皆さんに見ていただきたい、伝えていきたいという思いから全国の歴史資料館などで拵を中心に企画展や講演をやらせていただいています。機会がある時に見て知っていただいきたいと思います。7月15日から10月1日までの期間で、岡崎城に隣接している三河武士の館で企画展・講演をやらせていただきます。
※この記事は2017年07月01日時点の情報を元にしています。現在とは内容が異なる場合がございます。