全国の商店街が衰退していくなか、地域の中小零細事業者の応援団として奮起している男がいる。全国の地方新聞社が推薦する地域再生大賞で準大賞を受賞した「岡崎まちゼミの会」の代表、松井洋一郎氏だ。実家が岡崎市の商店街で化粧品店を営んでおり、商店街が衰退していくのを目の当たりにしてきた松井氏は、どのような思いでこの取り組みをされてきたのだろうか。衰退した商店街を復活させるには何が必要なのだろうか。

 松井さんは「岡崎まちゼミの会」の代表をされていますが「まちゼミ」とはどのようなことを目的とした会なのですか。

 商店街や地域活性化の取り組みです。「得する街のゼミナール」略して「まちゼミ」といわれています。各地域において商店街だとか中心市街地、事業者さんが集積するコミュニティーエリアというのがありますが、そのエリアの地域事業者さんが参加しています。
 地域事業者さんの強みは、品揃えだとか価格よりは、やはりそこで商いをする人の魅力だと思います。ゼミでは、自分の店舗で店主やスタッフの方たちが自分自身の強みである知識や技術を伝えます。自らのファンになっていただける文化教室を店舗の中でやるというような取り組みです。

 そもそも「まちゼミの会」を始めようと思ったきっかけは何だったのですか。

 岡崎市の中心市街地は、1990年には商業額が550億円くらいあった商業規模のまちだったんですが、やはり全国の市町同様、平成に入った頃から衰退していきました。
 もう一度人を呼び込もう!何かをやろう!といってイベントや祭り、歩行者天国などをやりますが、イベントの日には人が来て賑わったかのように見えます。しかし普段は静かな閑散とした街なんです。取り組みはやっているけど「来続けていただく」というところまでの活性化にならない。そこで志向を変えて、街に人を呼び込むのではなくて、お客様がたくさん訪問する個店を増やす。そうすれば、まちはもう一度復活できるのではないかと思います。

 13年前は10店舗でしたが、今は岡崎市内3地区で170店舗参加していまして、全国で235地域の商店街がこの取り組みを「岡崎モデル」としてやるようになりました。イベントで人を呼び込んで後は商売人さんたちの自己責任、ではなくて、参加することによってお店のファンができたり、お店の本当の良さがわかっていただける市民が増える。それが売上げという形で結果的に商売につながってきた。だから口コミで参加店舗が全国に増えていったんです。

 具体的にまちゼミの内容やルールを教えてください。

 まちゼミは、1時間お客様とコミュニケーションを店内で取るんです。お客様の人数なんですが、例えば10人、20人ですとセミナーや講演会になってしまいます。まちゼミはコミュニケーション事業なので、人数は5名以下の少人数と決めています。
 参加店のメリットは、来たことのないお客様が来られて、そこから概ね20~30%くらいの方が、これをきっかけに再来店します。また、「教える」ということは、実は自分がいちばん教えられているんです。店主自身の勉強にもなるということです。さらに、商業者さん同士がこの事業を通じて仲良くなれて紹介し合う関係が構築できます。これは中小零細の強みです。
 お客様のメリットは、材料費が数百円かかる場合もありますが、基本的に無料です。買いもの力が上がるというのもお客様にとっていいことですし、商店街や商工会議所、行政が後援や主催に入っているので非常に安心です。参加店の勉強会をゼミ開催前に2回やるのですが、販売行為だとかお客様にそういう面でクレームを作ってしまう店舗は除外します。これを積み重ねて13年やってきているので、お客様から買わされたという不満は出ない。そうすると高い満足度が維持されて、結果、お客様が次に友達を誘ってこようとかというように、どんどん良くなってきたということです。


 これから先、日本の商店街が復活していくためにキーワードとなってくることは何だとお考えですか。

 人生において、商店街は元々モノの売り買いだけじゃなかったんです。誰かに出会ったり聞いたりというような、根本的な人生においてのきっかけ、コミュニケーション、自分のワクワク感みたいなものがあったんです。今それがなくなってきて、まちの機能が薄れてきました。そこをたくさん作っていこうっていう思いがあります。
 今日本で、若い女性に多いらしいんですけれど、ものをたくさん買っても幸せになれないっていうんです。自分にとって何が必要なのか、自分はどんなことをやりたいのか、そういったきっかけが勉強の過程の中で見えてこない。その人に取って「こういうことが好き、こういうことをやってみたい」という人生を豊かにすることが先に来て、その先に商品が売れる、そういう流れを作っていかなければいけないと思います。
 中小零細の一軒一軒が、まちの機能であって、まちの機能が豊富にあるまちは、やはり住む人に取ってみても「ここで子供を産んだり一生暮らしてみたいな」と当然なります。そこが大切だと思います。

 悪戦苦闘されている全国の商店街の方々へメッセージをお願いいたします。

 商店街ならではの強みというところを皆さん忘れてしまっています。その潜在ニーズを顕在化する取り組みをやれば、まちゼミに参加しなくても、お金やハードを作らなくても街は復活できると思います。皆さんが今すでに持っている機能で、個店を良くするために大事なことが3つあります。
 ひとつは、自分の商いに対する「プライド」。絶対これは捨てていないはずです。やる気のある人応援しますってバカげたこと言う人がいますけど、商売をやっている人でやる気のない人がそもそもいないんです。そこをちゃんと理解して、大型店などに対して一番負けていないのは人なので、自分自身がとにかく商品になって、諦めないで欲しいんです。自分の魅力を出すことです。
 2つ目が「つながり・連携」です。例えば、化粧品屋さんがうどん屋さんを紹介するというようなことは全国で皆さんやっています。自分で「うちの店がうどん屋で一番うまい!」といっても誰も信じてくれないけど、周りの人から「あそこのうどん食べるといいよ」って言われれば当然口コミとしてつながります。
 3つ目は「諦めないで」ということです。「うちの商売はもうなくなっていくから…」でももう一度見直してみてください。敗北感で、自らをその時代その地域に合わせようということを、必要とされる存在になろうということを、どこかで諦めているんです。「うちは後継ぎがいないからやめた」であるならばせめて僕はいうんです。ハッピーリタイヤしようよと。たくさんのお客様に惜しまれて、自分がやってきた仕事というものを、本当に良かったねっていう声で辞められるような商いをしようよって。変わっていくということです。


インタビュアー
ハープ奏者 川島 憂子さん
ハープ奏者 川島 憂子さん

2才から音楽の基礎、4才からピアノを始める。スコットランドでハープに出逢い、ハープに転向。第9回大阪国際音楽コンクール入選。