「歌う弁護士」「ソプラノ弁護士」とも呼ばれ、愛知県初の女性弁護士として今も活躍する大塚錥子さん。昨年8月のリサイタル(県芸術劇場大ホール)では、プロのダンサーと踊り、華麗な衣裳で、市川猿之助なみに空中を飛んで歌った。その歌声はプロも顔負けするほど、美しく、伸びやかだ。超多忙な中を、インタビューに応じていただいた。

 大塚先生はどんな少女時代をお過ごしだったのでしょうか。

 刈谷南中学校から刈谷高校に進学しました。刈谷高校では、音楽や美術、書道などを選択する道も開かれていました。私は受験科目ばかりでなく、音楽も選択しました。体育も大好きでした。陸上部に入って百メートルとか、走り幅跳びとかの選手として頑張りました。とても楽しい高校生活をおくっていたと思います。また、好きなこと、やりたいなと思ったことを十分学ばせてもらえた良い時代だったと思います。両親にもこんな青春時代を過ごさせてもらい感謝しています。

 子供の頃はどんな夢をお持ちでしたか。

 父が裁判官でしたので、私も裁判官か弁護士になりたいという夢と、父が裁判官と同時に一種の外交官的な仕事もしていましたから、そちらへ行きたいと思ったり。音楽もいいなと考えたり、いろいろな夢を持っていましたね。

 音楽への関心はいつ頃からでしたか。

 中学校の二、三年生の頃、神谷幸枝先生に教えていただいた頃からです。先生は安城にお住まいで今もご健在です。また、刈谷高校では、幸枝先生の先生である太田あき先生にも教えていただきました。グリークラブで、みんなと合唱したり、音楽会では、何度も独唱をさせていただきました。

 弁護士になろうと思ったきっかけは何でしょう。

 やはり、父親の影響が大きいですね。

 先生が尊敬する人とか、影響を受けられたと思う人はいらっしゃいますか。

 聖路加国際病院理事長の日野原重明先生と平成十七年の愛知万博会場をはじめ、数か所でコラボレーションをさせていただいたのです。ご高齢なのに話題も豊富で幅の広い知識をお持ちでいらして、どなたにもやさしく接して下さる方です。神様のような感じで、とても尊敬しています。
 身近なところでは、主人も尊敬しています。刑法学者で名古屋大学の教授でしたが、今は名誉教授です。主人は研究熱心で、勉強の合間にご飯やお風呂があるという生活でした。今は研究に専念しています。

 先生が弁護士として、人間として大切にされていることは?

 まず誠実さです。仕事でも、生き方でも。それから努力です。夢を持って前進していく。そのために努力を重ねていくという心構えは幼い頃から持っていましたし、これからも、ずっと持ち続けて行きたいです。

 先生のコンサートも聞かせていただきたいです。

 県や市町村などから依頼を受けて、毎月一回くらいは、歌わせていただくことが多いですね。そして、私のリサイタルの時は、山本一道弁護士や住田正男弁護士がいつも事務局を担当して下さっています。その方たちの支えを本当に有難く思っています。
 講演では、法律問題をオペラで綴ってお話をすることがよくあります。例えば「椿姫」の中の有名な「乾杯の歌」で登場します。観客のみなさんは、法律の話だから、黒のスーツだろうと思っていると、いきなりドレスでワーッと歌って出てくる。びっくりしちゃうでしょ(笑い)。「椿姫」の場合は、内縁関係とか、婚約の話をして、口約束だけでも婚約は成立するとか、そういう話をするのです。

 楽しい演出ですね。

 そうですね。例えば「ドン・ジョバンニ」なんてセクハラにもってこいでしょ(笑い)。「メリー・ウィドー」では遺言の話をすると、面白く聞いてくれるんです。


 これからの先生の生活プランとか、夢はなんでしょうか。

 弁護士には定年がありませんから、最後まで頑張って弁護士の仕事を続けたい。弁護士の仕事の相手は人間です。苦しみを持った方が相談にいらして、少しでもうまく解決できた時には本当に生きがいを感じます。また、コンサートも、同様に、より楽しんで続けていけたらと思います。

 先生の本も、第一刷がもう売れてしまったのですね。

 お蔭さまで。第二刷では、昨年の出版記念コンサートを記録したDVDを付けようと思っているんです。空を飛んで歌っているところも出てきます。実は、大学時代は山岳部に入っていて、高い所は大好きです。女性のオペラ歌手で、あんな高い所で歌った人は殆んどいないと思います。

 先生の健康法を聞かせて下さい。

 声を出すことですね。元愛知県総合保健センター所長の岩塚徹先生は、「三出す運動」をすすめておられました。声を出す、力を出す、そして、お金を出すのが健康のヒケツとのことです。

 ふるさと刈谷、三河に対してどのような思いをお持ちですか。

 私を育ててくれた所で、何かあると、いつも意識のどこかにひそんでいて、心から離れることがありません。ソプラノ弁護士として現在あるのも子供の頃からの縁があってのことです。コンサートの企画も、中日劇場で演出などをやっていらした高校の同級生の都築訓さんのお世話でした。ふるさとは、いつも私の心の中に生き続けています。

 若い人へのメッセージをお願いいたします。

 私は朝日大学で若い人たちに教えていますが、今の若者はすごく素直で、教えたことをきちっと理解してくれますが、自分で創造していくこととか、自分のやりたいこと、きちっとした将来の夢などが、ないような気がします。自分がしたいことを見つけ出して、それに対して一生懸命に、積極的に努力をしていくという姿勢を強く持ってもらいたいと思います。

 今日は、お忙しい中をありがとうございました。


インタビュアー
杉浦 宏美さん
杉浦 宏美さん

 安城市に生まれる。名古屋音楽大学作曲学科卒業。社会福祉法人「ぬくもりの家」のテーマソング作詞・作曲。知多ピアノ室内楽フェスティバル、日本のピアノ音楽100年展、等に出品出演。'05より絵本の語りのための付随音楽を作曲し西尾市内の寺院、小学校、福祉施設などで上演。足踏みオルガンのコンサートも企画、上演。さらなる音の表現を模索中。安城音楽協会会員。西尾市在住。