赤字経営が続き、医師不足など、多くの難題を抱える西尾市民病院の新院長に禰宜田政隆氏が就任した。その問題点をクリアし、名実ともに地域の基幹病院を目指す。「切りつめた生活の中から、きちんと医療費を払い、頼りにしてくださる市民がいらっしゃる。そのためにも一つひとつ、確実に変えていかなくてはならない」と、禰宜田新院長は語る。

 今回、西尾市民病院の院長になられましたが、赤字体質や医師不足の課題など、前途多難な中で、就任された決意を伺いたいと思います。

 正直言って、うちの病院は赤字を抱え、いろいろ批判を受ける場面もありました。それでも、患者さんから「やっぱり先生、ここにおってよ」「ここの病院、なくしちゃいかんよ」とか言われる。年金となけなしの金で医療費はきちんと払っていただいている。この病院を頼りにしてみえる。そんな市民のためにも、病院をなくすわけにはいかない。

 そこで、新院長として最初に取り組まれたのは、どのようなことでしょうか。

 問題点をいろいろ見てみたのですが、やはり圧倒的に医者が少ない。人口当たりでみると、全国平均の三分の一しかいない。まず、第一にやるべきことは医師の確保。今年に入って四十五の大学医局を回り、医師の派遣をお願いしました。もっと西尾市にも、うちの病院にも関心を持ってもらわなくては、と痛感しました。愛知県職員の方にも「この地域の医療の現状に向き合ってほしい」と依頼してきました。

 病院の利用状況の改善についてのお考えはどうでしょう。

 現在、まだ道半ばです。稼働率も良くありません。入院期間を短くしなさい、というのが国の方針でもあるので、従来ですと二週間入院していた人が、五日くらいで退院する。ただ空いたベッドを埋めないと、経営的にも問題となる。具体的には、病床の種類を、急性期と回復期に分け、隣接する基幹的な病院からの退院患者を受ける事も進めていこうと思っています。さらに、在宅支援機能を強化させ、より速く患者を地域に戻す。基幹的な病院は、短期間で高度な急性期医療を展開するという使命がある。だが患者は、生命の危機は脱したものの、まだ病状が不安定で、濃厚な医学管理が必要な場合もある。そうした患者も引き受け、そのときどきにふさわしい必要な医療を提供していく。

 女性内科外来など、新しい取り組みについて教えて下さい。

 女性内科外来は、八月から始めたところです。また新しい取り組みとして、講習会や講演会を、積極的に行っていく予定です。さらに、病院再生には、関連する科をある程度統合させる。例えば消化器だったら消化器センターとか、センター化することを考えています。そのためにも、医者を集めないといけない。強化できるところは特別に強化して、逆に、一部の科は外来だけにすることも考えています。


 ホームページを拝見したのですが、「かかりつけ医をもちなさい」と呼びかけられていますが、これはどういった意味があるのでしょうか。

 かかりつけ医というのは、患者さんの全体像を一番よく知っている。例えば、糖尿病の専門家は糖尿病はしっかり診るけれども、循環器や呼吸器までは診ない。かかりつけ医の方は、各分野は深くないとしても、全体的にケアをしてくれる。ここが治療のスタート点だからです。今はちょっと転んでも、救急車を呼んで三次病院へ行く人がいる。本来三次病院はもっと重症な人を診なくてはいけないのに、いっぱいで診られなくなる。基本的には、まずは開業医さんである一次の医療機関にやっていただく。そこがムリだと思ったときに、次の二次病院に、二次病院がムリなときに三次病院。これが本来の医療の流れです。長寿医療センターの大島先生は「いつでも、どこでも、好きなときにかかれるようにやっていたら絶対、医療は破綻する。必要なときに、必要なだけの医療を受けるような制度に変えていかなければいけない」と言ってみえます。

 私たち患者としても、三次医療への意識を持つ必要がありますね。

 理想的には、最初の一次を二十四時間対応してくれる医療機関があって、そこで必要だと思ったら次に行く。しかし、これがなかなか難しい。

 地域の基幹病院として、地域の医療連携体制づくりについてのお考えを聞かせて下さい。

 最終的には、地域包括医療という形にもっていく。基幹病院的なところがあって、そこを支援病院が支える。基幹病院は、もっと重症度の高い人を中心に診ていく。その後、在宅や介護施設、開業医さんであったり、要はシームレス(切れ目のない)のような医療の形にもっていく。団塊の世代が後期高齢者になるとき、高齢者人口がピークになる。それまで、どんどん高齢者が増えていく。当然、病気も増えていきます。今のような医療体制では完全に崩壊してしまいます。希望が持てるのはこの地域の介護施設や、後方にあたる医療関係機関の人達が非常にやる気があることです。介護施設等における「看取り」も進んでおり、在宅医療も含め、個人の多様な価値観に対応する医療ができていると思っています。

 今は、病院間のネットワークもかなり進んでいると聞いていますが。

 電子カルテなどのネットワーク化や、当院地域医療連携室を介してさらに連携・情報交換が活発になれば、地域住民に一層貢献できると信じています。ただ、セキュリティに関しては、十分気をつける必要があると思います。

 西尾市民病院のセールスポイントは何でしょうか。

 うちの規模は中規模病院ですので、ある程度まとまって診れる。アットホームにできますし、専門的なことを生かしつつ、全人的な医療をする上では、今の規模がかえっていいかなと思っています。風通しがよくって、一つの家族のような連帯感でやれることです。市民の生命、健康を守る市民病院の職員であるという誇りと、市民のための病院に生まれ変わるという覚悟が必要です。医師の成長が病院の成長の大きな鍵となる。互いに切磋琢磨し合い、緊張感ある堅実な風土に作り変えていきたいと思います。

 本日はお忙しい中を、ありがとうございました。


インタビュアー
大嶋 宏美さん
大嶋 宏美さん

1979年生まれ。岐阜県出身。出版社勤務を経て、西尾市一色町で書店を営む夫と結婚。町の本屋の嫁として日々奮闘中。趣味は散歩と読書。