平成30年に成瀬町長が就任されてから約3年、幸田町が近頃話題である。幸田消防カレーは某有名雑誌に掲載され、お隣の蒲郡市長と協力して某有名ドラマのロケ地になったことでも話題となった。進化系ワーケーションとも言える取り組みも興味深い。成瀬町長とはいったいどんな人物なのだろうか?


愛知幸田の消防カレー  火事場のチカラメシ

愛知幸田の消防カレー 火事場のチカラメシ


本日はどうぞ宜しくお願い致します。早速ですが、成瀬町長についていろいろとお聞かせいただきたいと思います。まずは、成瀬町長が子供だった頃のことを教えてください。


僕の家は、かつて幸田町の川や田んぼ、里山のある集落の一番西はずれにありました。今は駅ができて、便利になっています。里山でカブトムシ捕りなど、子供時代は遊び場には困ったことがありません。家族構成は、父と母、そして姉と僕。父は名鉄の現場職員で、現場に泊まって帰ってくるということも多く、僕の家は西のはずれにあったので、夜は防犯灯もなく真っ暗で怖かった。昔よくある田舎の光景ですね、星明りで生活するというような。幸田小学校、幸田中学校、幸田高校に通い、大学だけは4年間京都の大学に行きました。


成瀬町長の社会人1年目は、京都から幸田町に戻られたのでしょうか?


はい、幸田町に戻って幸田町役場に就職し、担当は畜産と園芸でした。当時の幸田町には豚、乳牛、鶏など畜産農家の方が沢山いらっしゃいました。また、園芸も盛んで特産の筆柿、いちご、ナスなど園芸部会が10部会ほど、畜産部会は5部会ほどあったと思います。僕は、約15の部会を担当し、販売・収穫時期はいつなのかということを学ぶことができました。この経験で、僕は幸田町の地形も知ることができたんです。


生まれ育った場所に戻って社会人として歩み出した幸田町長。一人ひとりの出会いがやがて大きな力となる。素敵ですね。幸田町の魅力についても知りたいです。


名古屋駅から幸田町に電車で向かうと色濃くなってくるのは緑。通勤圏として住みながら、自然体験ができ、山の景観が見える。昔は南北にしか繋がっていなかった国道が東西にも繋がるようになり、住んでいる人にとっても、働く人にとっても便利で、しかもロケーションが良い、そんな場所です。


車でも東西南北移動がしやすく、自然も豊かとなれば住みたい方は多いでしょうね。近頃、メディアや雑誌でよく幸田町の事を目にするようになりました。まず、巷でウワサの『幸田消防カレー』について教えてください。


仕掛け人は、愛知県にお住まいの料理研究家の長田絢さん。彼女が、24時間勤務の幸田町の消防署員が食べているチカラめしが美味しいということに目をつけ、商品化に向けてアレンジ。特徴としては、いちじくや筆柿、豚肉など幸田町の特産品を使っています。これに和風だしとスパイスが効いており、深い味わいを生み出しています。「幸田消防カレー」は道の駅や町内の飲食店で販売されているので、幸田町に立ち寄った際はぜひ食べてみてください。ちなみに、パッケージに写っているのは長田さんと現役の消防署員です。


消防署員のパワーと幸田町の恵みがたっぷりと味わえるカレー、食べてみたいです。楽しく消防署員のことに目を向けてもらえる機会としても、素晴らしいと思います。私も道の駅などへ早速足を運んでみます。さて、それではロケツーリズムについてお伺いしたいと思います。


幸田町は観光地としてあまり目立ったものはありません。しかしロケツーリズムという言葉に惹かれた2年前、「どんな街にでも魅力的な場所がある」ということを、アニメの制作現場の方、映画監督の方、そしてテレビの映像クリエイターの方々に自治体がアピールすることがロケツーリズムであることを学びました。そこで僕たちは、東京にある地方創生に精通している民間企業に職員を3カ月(1年で4人)派遣してみることにしました。新型コロナにより、はじめの3カ月間しか実現しませんでしたが、この派遣した職員が凄かった。ここでロケツーリズムとしての営業方法を学び、映画監督や映像クリエイターの方に出会う度に名刺交換をしていたんです。


消防署に感染症専用の搬送器具「バイオキャノピー」を導入。署から説明を受ける町長

消防署に感染症専用の搬送器具「バイオキャノピー」を導入。署から説明を受ける町長


幸田町のロケツーリズムが成功したのは、東京に派遣した職員のおかげということですね。


いえ、これはあくまでもキッカケです。まずは東京で営業を仕掛けてくれた職員のおかげで「幸田町ってどこ?」と興味を持ってくださった映像クリエイターや映画監督の方々に出会えました。さらに、人気ユーチューバーが幸田中学校にサプライズ訪問、ドキュメンタリー番組でも「幸田町はなぜロケツーリズムを始めたのか」という特集を組んでいただき、知名度が一気に上昇しました。このような積み重ねで幸田町のロケツーリズムがカタチになっていったのです。さらに、幸田町には泊まるところが少ないと困っていた時、蒲郡市が「タイアップしましょうよ」と協力してくださいました。また、幸田町のロケ弁は女優さんに評価が高かったんですよ。SNSで取り上げていただき、嬉しかったです。ロケツーリズムには役場職員のみならず、町民の皆さんが沢山関わっています。


足りないところは補い合いながらタイアップできる市町村の関係が素敵ですね。ロケ弁もとても気になりました。コロナ禍で飲食店などが大変な状況で、商工会の方々も悩ましいところだと思います。このような時だからこそ、ロケツーリズムは必要なことなのかもしれませんね。2020年には、幸田町消防本部で初めてとなる24時間勤務の女性消防職員が誕生しています。このように、女性の社会進出を積極的にサポートされている成瀬町長の想いをお聞かせください。


今は女性が重要な役割を担うことが増えてきました。その中で消防団員の女性登用は課題でした。なぜなら、詰所に女性用トイレがなかった。このような状況の中で新しい詰所にトイレを設置して女性団員を3名登用し、消防本部の女性職員も2名採用しています。今後、女性にとっても魅力があると感じていただければ、女性の登用比率も増えてくると思っています。


今までは男性が担っていた役割を女性も担う。性別に関係なく、誰でも快適に働ける職場づくりが大切ですね。先ほど、ロケツーリズムのお話がありましたが、幸田町で「まちおこし」として、うまくいっていると思う場所があれば教えてください


三ヶ根駅のところに深溝(ふこうず)という場所があるのですが、そこにコミュニティホームがあって、その中に『スタートアップ研究所』という部屋があります。そこに職員を3名常駐させています。地元の人たちと一緒にまちづくりをする目的で、常駐している職員です。深溝地域の人たちが『まちづくり研究会』というのを作っていて、駅周辺の土地利用や活性化をテーマに活動されているのですが、そこに『スタートアップ研究所』も加わって、まちづくりのお手伝いをしています。コロナ禍で外出が自粛されている時に、三ヶ根駅周辺を周遊できるスタンプラリーを実施してみたところ、とても好評でした。知らない場所がまだまだ沢山あり、魅力を感じていただけたのだと思います。こんな時ですが、この企画が始まってから7,000人近くの人が訪れてくれています。まちづくりを考える人が頑張る、地元の人たちが頑張る、タイアップした人たちが頑張るという好循環でまちおこしが実現していくのだと思います。


春の交通安全キャンペーン立哨活動の様子

春の交通安全キャンペーン立哨活動の様子


なるほど、ワーケーションの理想形ですね。幸田町の魅力は、支え合ってまちづくりをしているというところ、そしてロケーションがとてもいいところなど数え切れません。幸田町を愛する町長のお気持ちもしっかりと伝わりました。本日はありがとうございます。


インタビュアー
榊原裕美さん
榊原裕美さん

安城市出身。名古屋音楽大学大学院修了。
合資会社中善楽器に勤務し音楽教室運営業務に携わる他、音楽講師として指導にも携わる。ライフワークとして電子オルガンと他楽器との共演、公演企画に注力。音楽を通じて人と人を繋ぐこと、スポットライトを浴びること、舞台袖で動きまわること、様々な形で音楽に携われていることに幸せを感じている。