西尾市内の小中学校で初めてユネスコスクールの加盟認定を受けて話題になっている西尾小学校。どのような道のりを経て加盟に至ったのか、どのようなビジョンで取り組んでおられるのか。稲垣寿校長にお尋ねした。

ユネスコスクール加盟認定までの簡単な経緯を教えていただけますか。

 16〜17年程前から「町学習」という学習に取り組んできました。子供たちが町へ出かけて学ぶという地域学習の先駆けで、当時の校長だった赤堀先生が創始されました。子供たちは、地域と直接ふれあうことで大切なことに気付き、地域に働きかけながら学びます。地域の方たちも子供たちの面倒を見てくれながら、地域全体が活性化していく。これが町学習のビジョンです。
 一方、ユネスコスクールが推進するESDは、持続可能な開発のための教育です。世の中が良い形で続いていく、資源を食い尽くしてしまうとか、そういうことではなくて。理念のなかには、道徳、環境、国際理解など、ものすごく広いんです。この理念が、当校の特色である町学習の理念と方向性が合致するんです。
 加盟認定までの経緯というかモチベーションは、何年も続けてきた町学習だと思っています。

 もともとやっていた活動と方向性が同じだったということですね。

 そうです。ユネスコスクールに参加して新しい活動を始めた訳ではないんです。でも、加盟認定されると世界の学校と繋がっていけたり、国際子ども会議に参加したりすることで子供たちの視野が広がります。

 西尾小学校では、どのような取り組みをされているんですか。

 地域と子供たちの絆を深めていくことです。その中の動きとして、伝統文化を継承したり発展させたり、町おこしもそうです。地域との関わりが深まると、子供たちはふるさとが好きになります。ふるさとをしっかり持った子供は、人間的にしっかりした考え方ができる大人になっていくと思います。
 研究発表会を来年行う予定でありまして、テーマが「ふるさとを愛し、語れる子の育成」なんです。子供が自分のふるさと西尾のことを語れるようになるためには、まず、語りたいという思いを持っていなければできません。次に、語れる内容を持っていなければいけない。そして、語るための力を持っていなければいけない。このような考えで今の研究を進めています。

 西尾小学校には「祇園クラブ」がありますが、具体的にどのような活動をされているのですか。

 祇園クラブとは、四百年以上の歴史を誇る西尾祇園祭に町衆の方々と一緒に、伝統文化の継承者になっていこうというスタンスで参加するものです。お囃子や大名行列の動きなどを、町の方に来ていただいて練習しています。

 祇園祭に関わっていくことによって子供たちはどのように成長していくとお考えでしょうか。

 恐るべき情報量が子供たちにも入ってくる時代です。どの子供もインターネットやテレビ、ゲームの世界といった同じような世界観ができていく。ところが、地元のお祭りを実際に見て、町衆の素敵さを肌で感じるような経験を重ねると、子供たちには、自分はこうなっていきたい、自分は何に頑張っていこうか、といった明確なモチベーションが生まれる、そういった良さがあります。実際に参加した子供たちは、町衆があまりにも素敵な太鼓を叩くものだから自分も大人になったらああなりたいとあこがれる。これは、伝統文化の継承とともに、町を担っていこうとする始まりだと思います。
 将来、西尾を離れて行く子供もいると思いますけれど、祭りの時になったら西尾へ帰ってきて参加するような、そういう大人になっていってくれればと願っています。



 ここに飾ってある祭りのうちわは、西尾市商工観光課から頼まれて、西尾小学校の子供たちが描いたものなんです。とても町のことを良く知っているとご担当の方が驚かれていました。たとえば、祇園祭の千秋楽の夜遅くにしか見ることができない泣き獅子の絵。このような絵が描ける経験をしていくと「語る」ことができるようになるんです。自分で体験・実感したもの、見たもの、人と話して聞いたこと、そういうことをもとに物事を考え、語る子供を育てていきたいと思います。


 素晴らしいですね。今後はどのような方向性で活動されていこうとお考えですか。

 方向性は、これまでと変わるものではないと思っています。やってきたことをもう少し深化させたいと思っています。
 たとえば、伝統文化の継承者となるためには、伝統文化の価値を知って、なおかつ大切にしていこうという人たちの思いに触れ、自分達も少しでもそれを継承していこうという流れがひとつあります。
 もう一方で、西尾の町が将来、どうなっていけばいいのかという西尾の町そのもののことも考える。このことと祇園祭の学習は繋がっているんです。高学年の子供たちに1回だけ祇園祭に行くとしたら何を見にいくのかという質問をしたら、自分たちが一番関わっている伝統的な行事が大事に決まっている、という文脈になりがちなんですが、市役所などに調べに行った子供たちは、市役所の方がすごく熱心に「踊ろっ茶」(近年始まった市民総踊り)を成功させようとしていることを知ります。伝統文化から考えれば伝統行事の方が重いのですが、このような活動をしていかないと町がどんどんさびれていくんだと。だから屋台も決して無意味ではない。だってたくさんの人が来てくれる。すると当然、商店街の人もお店を広げてPRにもなる。祇園祭は、伝統文化の継承だけではなくて、西尾の町そのものが将来どうなっていくかということに大きな意味を持っているんだということに気付いていく。そういう学習を高学年で展開していきたいんです。
 西尾の未来、それに対して自分たちに何ができるかを考えることができる子供を育てて行きたいと思っています。簡単には実現できない夢かもしれませんが、私たちは本気で取り組んでいます。


インタビュアー
大嶋 宏美さん
大嶋 宏美さん

1979年生まれ。岐阜県出身。出版社勤務を経て西尾市一色町にて書店を営む夫と結婚。町の本屋の嫁として日々奮闘中。趣味は散歩と読書。