ヤマキ糀店は平戸橋町にある明治創業の今年で117年目を迎える糀店である。ヤマキ糀店は米「こうじ」を作っているので「麹」ではなく、「糀」。

糀店では朝4時から仕込みが始まる。洗った米を蒸して人肌ぐらいまで冷ましたら、糀菌をうつ。そして室(むろ)の中に入れる。米を水に浸す時間を合わせると糀ができるまでに4日間もかかる。それを切らさないように毎日朝4時に起きて作業をするのだ。こうして手間暇かけてつくる糀は甘酒やお味噌、醤油造りの基礎となる。

糀の一般的に販売され始めたのは明治時代の頃。日本酒をはじめ味噌や醤油など生活になくてはならない存在としてどの町にも糀店が多く存在した。しかし、時代の流れと共に糀店を営むところは少なくなり、現在豊田市内で糀店を営んでいるのはヤマキ糀店のみ。つまり豊田市で唯一の糀店なのだ。時代の流れに合わせて変わるお客さまのニーズにヤマキ糀店として向き合ってきた。

遡ること明治38年(1905)に、初代鈴木惣十(そうじゅう)が現在の地に創業するところから、ヤマキ糀店の歴史は始まる。農業を営む傍ら、近藤さんという方から受け継いで糀づくりが始まったのではないかと言われている。その当時の記録は残っていないが、その後二代目鈴木喜三郎とかい夫妻にバトンが託され、挙母藩の御典医石川家の娘でしっかり者のよしのと治助が三代目を継いだ。

四代目を継いだのは治助さんの娘であった花子であった。糀ブームが起こったのは終戦後のこと。どぶろくを作るのが流行したり、家庭での味噌の需要が増えたりと糀は飛ぶように売れた時代。そんな時代だったからこそ、花子は時代の糀を買いに来る人の話によく耳を傾けた。そして、糀と味噌こうじのほかに、もろみ味噌など加工品の販売を行う。しかし飛ぶように味噌や糀が売れる時代はそう長くは続かない。昭和43年頃、家庭でお味噌を作る人が極端に減る。手軽にものがすぐに買える便利な世の中になってきたのだ。そこで、五代目小夜子は、自宅で味噌を作ることが減ってきた現代を読み、大豆を炊き、蒸すまでの工程を店で行い販売した。それだけではない、各家庭で熟成ができるように提案し予約販売できるシステムまで作ったのだから驚きである。先の先まで読みつくした戦略であった。


4代目花子さんとご主人と伝さん(ヤマキ糀店にて)


四代目花子さん(ヤマキ糀店の前で撮影)


その後、現在、六代目敦行にバトンが託されてインターネット販売が始まる。「ここ10年くらい、若い世代からお年寄りまで健康を考え発酵食品ブームが起こっています。無添加に拘って味噌づくり、甘酒づくりにチャレンジする人も多い。このような理由から、糀はまた注文が増えています。今まで味噌づくりは冬に行うので、冬の間私たちに休みはありませんでした。でもそれだけではなく、夏場も忙しくなるように今考え中です」と語る六代目の目は活き活きと輝いている。時代のニーズの先を読み、常に糀と共に歩んできたヤマキ糀店。


糀には私たちの身体によいビタミンや酵素が含まれており、酵素の力でお肉が柔らかくなったり旨味や甘みが増したりとお料理の下ごしらえや味付けにも欠かせない。砂糖の代わりに糀を使う人も多く、アレルギーの緩和にも良いとされ注目されている。豊田市平戸橋という地には、のどかな田園風景が広がりゆっくりとした時間が流れる。ヤマキ糀店には生の糀が売られており、味噌づくりや甘酒づくりのレシピについても聞くと教えてもらえるのは嬉しい。丁寧に作られた糀で作るお料理はどれも絶品。ほんのり甘い糀の味には作っている人のやさしい顔が浮かぶ。いつもの日常を少しスローテンポに。平戸橋をゆっくりと歩きながらヤマキ糀店にぜひ足を運んでみて欲しい。


ヤマキ糀店

所在地
豊田市平戸橋町太戸97 Google Map
電話番号
0565-45-1028
ウェブサイト
https://www.yamaki-kouji.jp/
営業時間:9時~19時