日本で唯一、黒木炭コンロ(通称 黒七輪)を作る製陶所が碧南市にある。杉松製陶の創業は大正5年、三代目杉浦和徳氏の祖父福太郎氏が農業の傍ら始めた。二代目の父松三氏から専業となり、屋号は二代目の姓と名から一字ずつ取って杉松製陶とした。そして昭和52年、和徳氏が脱サラをして三代目を継いだ。
良質な粘土が取れる碧南市界隈では古くから黒七輪に限らず、多くの製陶所があったという。七輪は調理器具としてどの家庭にもあった。しかし戦後、昭和20年代にガスが普及すると需要は一気に減っていった。当時、碧南界隈で七輪を作る製陶所は50軒以上あったというが、植木鉢や瓦関係に職を変えていったという。三代目が継いだ時、手作りで黒七輪を作る同業者はすでに3軒になっていた。現在では、伝統的な製法で作るのは杉松製陶1軒だけとなった。
丈夫で長持ちする黒七輪と一般的な七輪との決定的な違いは構造にある。黒七輪は二重構造になっているため燃費が素晴らしく、3~4割ほどいいという。さらに金具を一切使用していないため錆びることがない。
土間に土壁という創業から修繕を重ねて使ってきた木造工場で、ろくろを回しながら大きなヘラで形を整えていく。工場は、窯場と仕上げ場でひとつ、製型でひとつ、2つの棟があり、窯場とろくろがある工場は、焼く前の商品が凍るのを防ぐため天井が低い構造となっている。木造工場の内部は歴史を感じる。
「伝統ある黒七輪作りの火を消したくない」和徳氏は遠くを眺めるように呟いた。後継者をつくることが今の目標だが「どうなるかわからない」という。
※この記事は2017年01月01日時点の情報を元にしています。現在とは内容が異なる場合がございます。