山田彌八は、西尾城へ出入りする御用商人だった。文政八年(1825)の記録である。三代にわたり山田彌八を襲名し、開国や明治維新など、時代の変遷を経て商いを続けてきた。
明治三十七年、四代目になる山田仁一郎は、商いの中心であった呉服をより充実し、「大黒屋」を一色町本町に開業、初代店主となる。呉服店として再出発した大黒屋は、その後、二代目真一、三代目貫彌が受け継ぎ、現在は四代目の悦弘さんが、妻慶子さんと共に暖簾を守る。
悦弘さんは長男として、当初から店を継ぐことを決めていた。上田市の伝統ある店で修業、問屋にも三年勤め、十八年前に店に入った。
大黒屋は三代目貫彌の時に、現在地(一色町公民館西)に新築・移転して十五年になる。外観は今までの造りをそのままに。店内は天井も高く、広くて、のびのびとした和空間になっている。今では洋服も扱っている。
「祖父は俳句をたしなんだり、父も遊び心のある社交的な人でした」と、悦弘さんは語る。「商いに関しては、第一にお客様に喜んでもらうこと。これに尽きる、と教えられた。どうしたら、お客様に喜んでもらえるか、ですね」
そのためにも、いい商品を自信を持って仕入れ、しっかり説明して、選んでもらう。商品を見極め、コーディネートする力も欠かせない。
祖母・母・孫と三代の買いものは、呉服店ならではのもの。「古くからのお客さまが代々、店に来てくれるのは、とてもうれしい」と悦弘さん。
もちろん、新しいお客、若い女性へのアピールも必要だ。着物は着ると楽しくなる。色半襟、帯締め、足袋、バッグなど、小物の組み合わせも楽しめる。結婚式や茶会などのフォーマルなものは、それなりの決まりもあるが、ふだんのランチやパーティ、花見などの遊びの時間も、気軽に着てほしい、と願う。
「男性も女性も、ふだん着に着物を着る。着物で遊ぶという楽しさを知っていただきたいですね」と悦弘さんは語っていた。
※この記事は2013年07月10日時点の情報を元にしています。現在とは内容が異なる場合がございます。