西尾市吉良町饗庭に所在する金蓮寺弥陀堂は、現存する愛知県内最古の建築物で、檜皮葺きの屋根が美しい建物である。県内では犬山市に所在する犬山城天守・茶室如庵とともに、3件の国宝建造物のひとつに数えられている。
鎌倉時代の貴重な遺構
平安時代の後期、末法の世が訪れ社会が乱れるとの不安から、人々は来世での極楽往生を約束してくれる阿弥陀如来に救いを求めた。金蓮寺弥陀堂は、こうした浄土信仰の流行にともなって、全国に数多く建てられた阿弥陀堂建築の流れをくむ建物である。
弥陀堂の建築年代は、仏像を安置する須弥壇が建物中央よりやや後方に位置し、四天柱のうち前の2本が省かれた形態から、鎌倉時代中期と考えられている。
平安貴族の住宅様式を伝える建物
金蓮寺弥陀堂のもっとも大きな特徴は、平安時代の住宅建築の影響を色濃く残す点である。正面の孫庇を吹き放ちとし、大きく面取りを施した柱や舟肘木、軒の垂木のうち外側の飛檐垂木を間隔の荒い疎垂木とし、正面の建具を蔀戸とするなど、いずれも平安時代の貴族住宅や天皇の住まいである内裏で用いられた様式と共通する特徴を有している。
鎌倉時代までに建てられた阿弥陀堂建築で現存するものは、全国で20棟あまりである。この中で金蓮寺弥陀堂がとくに国宝に指定された最大の要因は、住宅風の仏堂が醸しだす洗練された美しさが高く評価されたためである。
住民によって奇跡的に守られてきたお堂
金蓮寺は三河守護の安達盛長が、建立した三河七御堂のひとつとの伝承があるが、文献が残っておらず創建の経緯は不明である。江戸時代前期には、吉良義央が梵鐘を寄進しており、歴代領主による庇護があったものと思われる。
また、地元では「饗庭のお不動さん」として信仰を集めており、現在も饗庭地区で寺の維持が行われている。
平成27年に檜皮葺の葺き替え工事とともに耐震補強工事が行われた。補強は、外観を損なわないよう床下に施工され、縁下をのぞくと鋼鉄製の補強材を確認することができる。
毎年5月の毎日曜日には、ボランティアガイド吉良あないびとの会による見学会が開催される。弥陀堂内に腰を下ろし、静かに阿弥陀仏に手を合わせれば、750年前の鎌倉びとの祈りを身近に感じることができる。
※この記事は2018年10月01日時点の情報を元にしています。現在とは内容が異なる場合がございます。