分子とは何か。分子を使うとどのような新しいものができるのか。これを突き詰めていくことが分子科学研究所設立当初(1975年)から続く根底の考え方である。私たちが住んでいる社会、そして私たちの身体のほとんどが分子からできていて、分子の種類や状態が変わっていく中で(化学反応)私たちは生活している。しかし、その化学反応は学問的に見ると、そんなによくわかっているわけではない。理解してより良い社会にしようというのが分子科学研究所のミッションである。
 研究成果がどのような場面で社会に貢献しているのかを身近なところで見てみると、例えば、太陽光によって自浄作用のある物質(光触媒)を塗布したガラス。光触媒が、汚れ(有機化合物)を分解する能力があることを見つけたのは、実は80年代に分子研の坂田忠良助教授と川合知二助手(当時)が主導した基礎的な研究が元となっている。また、名古屋大学の野依良治博士がメントールだけを選択的に合成できるBINAP触媒を作って2001年にノーベル化学賞を受賞されているが、その触媒の開発は当時分子科学研究所に在籍された故高谷秀正博士との共同研究の成果であった。


分子科学研究所 川合眞紀所長


 分子研では現在様々な研究が行われているが、私たちに直結する研究として注目を集めているのは「生物は体内時計を持っていると言われているが、どのようにして分子は時を刻むのだろう」というメカニズムの研究。成果が出れば近い将来、不眠症、時差ボケなどを解消してくれるかも知れない。環境関連では、風や波を利用して作ったエネルギーをどうやって蓄えるかという課題がある。それを解決するための蓄電に関する研究も今盛んに行われている。また、レーザーを使った観測手法の開発では世界のトップを走っている研究所のひとつといわれている。
 分子科学研究所は、自然科学研究機構(5つの研究所からなる)のひとつで、岡崎には基礎生物学研究所・生理学研究所・分子科学研究所の3つの研究所があり、世界中から科学者が行き来している。2016年のノーベル生理学・医学賞は現在東京工業大学に所属されている大隅良典博士が受賞されたが、その研究の多くが岡崎の基礎生物学研究所で行われた。
 分子科学研究所では3年に一度、研究所の全てをオープンにする日を設けて一般公開している。「サイエンスのイベントなどで楽しんでいただく1日です。興味のある方はぜひ足をお運び下さい」と川合眞紀所長。本年は生理学研究所の一般公開があり、分子研の一般公開は来年10月頃の予定。市民公開講座である分子科学フォーラムは年4回開催している。
取材協力/分子科学研究所





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