亀塚遺跡 人面文壺形土器(撮影 小川忠博)


 昭和52(1977)年、安城市東町の亀塚遺跡の発掘調査では大量の遺物が出土した。室内に持ち帰って泥を落としてみると、土器の表面に線刻によって何かが描かれていた。当初は、「金魚?」「鳥?」などと想像していたが、接合してみると写実的に描かれた人の顔が現れた。これが、39年後の平成28(2016)年に国の重要文化財に指定された人面文壺形土器の発見の状況である。
 この顔は、壺の年代が弥生時代終末期(約1,800年前)であることから、「弥生人の顔」として広く紹介された。目の周囲に描かれた多数の線は入墨と考えられ、邪馬台国や卑弥呼で知られる『魏志倭人伝』の「男子無大小皆黥面文身」(男は年齢に関係なく顔と体に入墨をしている)の記述を裏付ける資料として注目されている。ちなみに、この壺は、ちょうど邪馬台国の時代のものである。


今宿遺跡の人面文土器 岐阜県文化財保護センター『今宿遺跡』1998

仙遊遺跡の石棺蓋石 善通寺市教育委員会 『仙遊遺跡調査報告書』1986

 一見不気味に見える、瞳のないレンズ形の目、目の周囲の入墨、ヒゲまたはアゴの入墨、耳と耳飾りを持つ顔は、辟邪(=魔除け)の意味があると考えられている。つまり、にらみつけることで悪霊を退散させようというものだ。
 興味深いのは、当時は交通手段も情報通信手段も未発達だったにも関わらず、全国に類似性の高い顔表現が見られることである。例えば、香川県善通寺市仙遊遺跡出土の石棺蓋石には、多数の線とともに口元が笑っているかのような顔が描かれている。また、岐阜県大垣市今宿遺跡出土の壺にも、同類の顔が見られる。こうした類似資料は全国に30点近くあり、表現に一定の規則があることから、文様のひとつとして「人面文」と呼ばれている。しかし、このような一種の情報が、どのように伝播、拡散したのかはよく分かっていない。


亀塚遺跡 2次調査風景

 また、こうした人面文は、特にこの東海地方西部、濃尾平野と矢作川流域の安城市域で多く見つかっている。こうした分布状況とともに、他の出土遺物とも関連させ、東海地方西部を、『魏志倭人伝』に「女王(=卑弥呼)に服従しない国」として記される狗奴国と考える説もある。
 弥生時代の壺に描かれた顔から、当時の日本人や社会の様子が見えてくる。


所在地
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齋藤 弘之(安城市教育委員会文化振興課)